「賃貸の申し込みはキャンセルできる?」「キャンセル料はかからない?」など、賃貸の申し込みをキャンセルするかどうか悩んでいませんか?
賃貸の申し込みをキャンセルすることは誰でも簡単にできますが、タイミングや取引相手によっては多額のお金を失う危険があります。
このページでは、長年不動産仲介の営業として働いてきた筆者が、申し込みのキャンセルについて下記の流れで解説します。
すべて読めば、申し込みをキャンセルするときのルールから、状況に合わせた賢い方法までわかるので、失敗することなくスムーズにキャンセルできます。
1. 賃貸の申し込みをキャンセルするときの基本ルール
賃貸の申し込みをキャンセルするときは、契約書にサインする「前」か「後」かで対応が異なり、基本的なルールは下記のようになります。
この基本的なルールを知らないと、悪徳な不動産会社に騙されたりします。
実際にキャンセル関連のトラブルは多発しているため、きちんとルールを理解しておくことが何よりも大切です。
詳しい内容をそれぞれ解説していきます。
1-1. 契約書にサインする前はキャンセル可能
既に申し込みをして審査が完了していても、契約書にサインする前であれば「契約が成立していない」のでキャンセルできます。
法律上は契約書がなくても契約は成立しますが、不動産会社を介して物件を契約するときは契約書の取り交わしが必須です。
そのため、一般的な賃貸の契約では契約書にサインをしたかどうかが重要になるのです。
賃貸物件を借りるときにサインする書類は主に3つ
申し込みから契約までの過程で考えると、主に下記3つの書類にサインをしますが、「賃貸借契約書」にサインをする前であればキャンセルできます。
書類 | サインするタイミング |
入居申込書 | 申し込むとき |
重要事項説明書 | 契約するとき |
賃貸借契約書 | 契約するとき |
一般的な契約の流れとしては、不動産会社で重要事項説明を聞いたあと、「重要事項説明書」と「契約書」にそれぞれサインをします。
つまり、重要事項説明を聞いて「納得できないこと」や「予定と違ったこと」などがあった場合、この時点であればまだキャンセルできます。
申込金も返金される
申込時に「1万円〜家賃1ヶ月分」の申込金を求められて支払うケースもありますが、キャンセルすれば返金されます。
この点に関しては不動産業の法律である宅建業法で、「キャンセル時は預かった金銭の返金を拒んではいけない」と定められています。
宅地建物取引業法施行規則 – 第16条の12第2号
宅地建物取引業者の相手方等が契約の申込みの撤回を行うに際し、既に受領した預り金を返還することを拒むこと。
上記のことから、契約前に支払ったお金は「預かり金」という扱いになるので、必ず返金してもらいましょう。
返金方法は不動産会社によっては変わりますが、銀行振り込みが一般的です。
仮に店舗での返金を求められたら、「振込手数料はこちらが負担するので指定の口座に振り込んでください」と伝えれば店舗に行く手間は省けます。
他に知っておくべきことはある?
もちろんあります。上記はあくまでも「基本的なルール」です。
物件によってはキャンセル料を請求される危険もあるので、契約書にサインする前でキャンセルを考えている人は、続けて「2章」を確認してください。
1-2. 契約書にサインした後は契約解除になる
契約書にサインした時点で契約が成立したことになるので、キャンセルではなく契約解除になります。
また「契約開始日」を迎えていないときや、鍵をもらっていないときでも契約解除になります。
そして、契約時に払った「礼金」や「仲介手数料」などのお金は返金されません。詳しくは「4章」で解説しますが、違約金を請求されることも多いです。
契約は慎重にすることが大切
契約書にサインする「前」と「後」では対応が一変するので、契約は慎重にすることが何よりも大切です。
キャンセルの理由次第では、契約を白紙の状態にしてくれる可能性もありますが非常に稀です。
多くの場合、無駄な費用を払う羽目になるので、いくら負担することになるのかを「4章:契約後にキャンセルするときの大きな代償」で確認しましょう。
2. 契約前のキャンセルでも費用を請求される2つのケース
契約書にサインする前にキャンセルしたとしても、下記2つのケースだと費用を請求される恐れがあります。
状況に合わせてそれぞれ詳しく解説します。
2-1. 設備の交換を希望したとき
申し込むときに、あなたが下記のような要望を出しておきながらキャンセルした場合、かかった費用を請求されます。
- エアコンを新品に交換してくれたら契約する
- 壁紙を張り替えてくれたら契約する
- 畳を新品に交換してくれたら契約する
契約することを前提に施工しているため、キャンセルされると無駄な出費となることから、貸主はあなたに対して損害賠償請求をすることができます。
もちろん違法な請求ではなく、求められたら支払いに応じる責任があるので注意しましょう。
2-2. 貸主からキャンセル料を請求されるとき
契約の仲介をする仲介会社の名義でキャンセル料を請求するのは違法ですが、貸主自らがあなたに対して請求することは可能です。
また、仲介会社が貸主名義で事務を代行することも違法ではありません。
つまり、貸主名義で請求されている場合は支払いに応じる必要があります。
ただ、貸主がキャンセル料を請求するときは、あなたがキャンセル料について事前に同意してることが条件になります。
こう聞くと「同意なんてした覚えない!」と思うかもしれませんが、申し込み時に同意してるケースが多いです。
入居申込書にキャンセル料の取り決めが記されてる
入居申込書に小さく記された、キャンセル料の取り決めをきちんと確認しない人が多いです。
下記は、よくある申込書の注意書きや署名欄をイメージして作成した物です。
このようにわかりにくく記されてるケースが多く、無意識のうちに同意しているため、キャンセル料を請求されることになるのです。
また、キャンセル料だけに注意するのではなく、申込書に書かれている注意書きをきちんと確認した上で申し込むようにしましょう。
それでもやむを得ない事情などでキャンセルしたいときは、次の章のキャンセルするときに使えるメール文を確認してください。
3. 申し込みをキャンセルするときに使える2つのメール文
申し込みをキャンセルするときは、形として証拠が残るメールを使うようにしましょう。
電話だと、担当者不在による取次ミスなどが起こりうるため、後々になって「言った言わない問題」に発展する可能性もあります。
そして、メールであれば状況に合った最適な理由でキャンセルできるため、あなたの状況に合う項目を確認してみましょう。
3-1. 審査承認「前」のキャンセル
既に審査が開始されていたとしても、結果が出る前であればキャンセルしやすいです。
キャンセル理由は「他にいい物件が見つかった」などで問題ありません。賃貸業界だとこのようなキャンセルは日常茶飯事です。
ただ、物件の募集をストップしてる可能性が高いので、きちんと謝罪することが大切です。
下記のテンプレートを参考に、「赤」と「青」の文面どちらか使いやすいほうを使ってメールを送りましょう。
●●不動産 ●●様
先日、●●マンション●●号室の申し込みをした●●です。
「あれから他の物件も継続して見ていたところ、●●マンションより条件のいい部屋が見つかった状況です。」
「このタイミングで恐縮ですが、仕事の都合上、急遽引越しすることができなくなってしまった状況です。」
そのため、こちらの身勝手な都合で申し訳ございませんが、●●マンションの申し込みをキャンセルさせてください。
●●さんには大変よくして頂いたにも関わらず、このような結果になってしまい恐縮ですが、また別の機会によろしくお願いします。
別物件の紹介をお願いしてもいいの?
申し込みをキャンセルして別物件に切り替える場合、同じ担当者もしくは不動産会社にお願いすることも可能です。
というのも、9割以上の賃貸物件は全国どの不動産会社でも紹介できるので、気軽に相談してみましょう。
そのときは下記のテンプレートを参考に、「赤」と「青」の文面どちらか状況に合うものを使ってメールを送りましょう。
●●不動産 ●●様
先日、●●マンション●●号室の申し込みをした●●です。
実は継続して物件を探していたところ、●●マンションより条件のいい物件が見つかりました。
そのため、申し訳ございませんが、●●マンションの申し込みをキャンセルさせてください。
また、身勝手な相談になってしまいますが、●●さん経由で下記の物件を紹介してもらうことは可能でしょうか。
【https://………………………………】※ネットの物件募集ページを送ります。
「可能であれば、内見した上で申し込みたいと考えています。」
「可能であれば、既に内見済みなので、申し込みの手続きをお願いしたいです。」
お忙しいところ恐れ入りますが、ご確認よろしくお願いします。
3-2. 審査通過「後」のキャンセル
審査が通過していると、物件によってはキャンセル料を請求される可能性もありますが、まずはキャンセルすることが先決です。
キャンセル理由は人それぞれですが、この状況なら「どうしても引越せない諸事情が発生した」ことを理由にするのがベストです。
そのため、下記のテンプレートを参考に、「赤」と「青」の文面どちらか使いやすいほうを使ってメールを送りましょう。
●●不動産 ●●様
●●マンション●●号室の申し込みをしている●●です。
審査が通過している状況で申し訳ございませんが、諸事情があり引越しができなくなってしまいました。
というのも、急遽転勤が決まってしまい、引越し先から職場に通勤するのが困難になった状況です。
諸事情というのは家族内の問題なので、こちらでは伏せさせていただきますが、現時点での引越しを見送らざるを得ない状況です。
そのため、大変申し訳ございませんが、申し込みのキャンセルをお願いします。
●●さんには大変よくして頂いたにも関わらず、このような結果になってしまい恐縮ですが、また別の機会によろしくお願いします。
キャンセル料を請求されたときにすること
キャンセル料を請求されたら、仲介会社に「請求書をください」と伝えた上で「国土交通省に支払うべきか確認してみます」と言いましょう。
そうすることで、大抵の仲介会社は引き下がるはずです。理由は2章でも伝えた通り、契約前に仲介会社名義で費用を請求するのは違法だからです。
ただし、下記のように「貸主名義」で請求されたときは支払いに応じる必要があるので注意しましょう。
次の章で、契約した後にキャンセルした場合、どれほどの費用が無駄になるのか詳しく解説します。
4. 契約後にキャンセルするときの大きな代償
契約書にサインした時点で「契約成立」となり、その後はいかなる理由でキャンセルしても「契約解除」という扱いになります。
つまり、一度成立した契約を解除するため、費用面で大きな代償を受けることになるのです。
また、賃貸の契約では下記のような設定日がそれぞれ設けられています。
設定日 | どんな日? | 時系列のイメージ |
契約締結日 | 契約書にサインして契約を結ぶ日 | 12月20日に契約締結 |
契約開始日 | 契約がスタートする日 | 1月1日から契約開始 |
入居開始日 | 部屋に初めて入る日 | 1月4日から入居開始 |
上記の設定日をもとに、払ったお金がいくら無駄になるのか、追加で請求されることはあるのか、などを詳しく解説します。
4-1. 未入居でも返金されないお金がある
契約締結後にキャンセル(契約解除)すると、未入居の状態でも下記のお金は返金されません。
名目 | 相場 | 返金されない理由 |
①礼金 | 家賃1ヶ月分 | 部屋を借してもらう(契約させてもらう)お礼に支払うお金なので、契約締結と同時に貸主の懐に入るから。 |
②仲介手数料 | 家賃1ヶ月分 | 賃貸契約の成功報酬として支払うお金なので、契約締結と同時に不動産会社の売り上げになるから。 |
③鍵交換費用 | 1.5~3万円 | あなたの入居が決定(契約)した時点で、新しい鍵の手配と施工をしているから。 |
上記3つの中でも、①と②は確実に返金されないと思ったほうがいいです。
唯一、鍵交換が未施工であれば返金されるかもしれないので、一度不動産会社に相談しましょう。
ただ、未施工の場合でも「施工済みだから返金できない」と言われてしまえばそれまでなので、泣き寝入りするしかありません。
契約開始日より前なら保証委託料は返金される
家賃保証会社と契約するために支払う「保証委託料」は、”不動産会社”に要望することで返金に応じてもらえます。
なぜ不動産会社に要望するかと言うと、保証委託料は下記のような流れで動いているからです。
不動産会社は代理店の立場なので、「10~20%」の紹介手数料を中抜きしています。
そのため、返金の際は不動産会社から保証会社に連絡してもらい、支払った総額をまとめて返金してもらう流れになるのです。
また、返金されるまでに時間がかかるのと、契約開始日が1日でも過ぎたら一切返金されない、ということに注意しましょう。
4-2. 違約金を支払うことになる
一般的な契約条件として、契約締結後から契約開始日より前にキャンセルすると、家賃1ヶ月分の違約金を支払うことになります。
この場合、上記の「①礼金」と「②仲介手数料」合わせて「家賃3ヶ月分」ものお金が消えてしまうのです。
また、契約書に「1年以内の解約は短期解約違約金として家賃1ヶ月分を支払う」と記載されていれば、追加で1ヶ月分を請求されるので注意が必要です。
4-3. 敷引きや償却があるとさらに負担が増える
賃貸契約の条件で、敷引きや償却が設定されていると、上記の「家賃3ヶ月分」だけでなく、さらに負担が増えることになります。
そもそも敷引きと償却は、担保として貸主に預ける「敷金(保証金)」から、解約時に無条件で差し引かれる金額を定めた名目です。
仮に敷金を2ヶ月分預けていて、敷引きが1ヶ月で設定されていると、解約時は敷金が1ヶ月分しか返金されないので注意しましょう。
キャンセルするなら必ず”契約前”にするべき
これまで解説してきたように、契約後にキャンセルすると多額のお金を失うことになるので、キャンセルするなら必ず”契約前”にすることを意識しましょう。
ただ、どうしてもやむを得ない事情で契約後にキャンセルするときは、負担を最小限に抑えられないか不動産会社にダメ元で相談してみましょう。
また、悪徳な不動産会社にあたってしまうと、下記の本来返金されるはずのお金も取られる可能性があるので注意しましょう。
- 敷金(敷引きが未設定なら)
- 家賃(契約開始前なら)
- 保証委託料(契約開始前なら)
次の章で、悪徳不動産にあたってしまいトラブルが発生したときの相談窓口を紹介するので、騙されないためにも頭に入れておきましょう。
5. 申し込みキャンセルに伴うトラブルの相談窓口
申し込みをキャンセルしたことによって、費用の請求や返金の拒否のほか、少しでも疑問に思うことがあるときは、下記の相談窓口を利用してください。
一般的な賃貸契約であれば、不動産会社があなたと貸主の間に入るので、不動産会社を管轄してる1番に相談することで大抵の問題は解決されます。
一方で、アパートの大家さんと直接やり取りしたことで発生したトラブルは、2番に相談することが望ましいので、詳しく解説していきます。
5-1. 国土交通省|不動産業課
「国土交通省|不動産業課」は、国から免許を与えられた全国の不動産会社の監視・監督に関する業務を行なっています。
つまり、不動産会社の元締めとなる存在なので、不動産会社が違法な請求や対応をしていれば厳正に処罰してくれます。
なので、キャンセルしたことでトラブルが発生したら、まずは下記の窓口に相談してみましょう。
地方整備局 | 電話番号 | 管轄区域 |
北海道開発局 不動産業第1係 |
011-709-2311 | 北海道 |
東北地方整備局 不動産業第1.2係 |
022-225-2171 | 青森県・岩手県・宮城県・秋田県・山形県・福島県 |
関東地方整備局 不動産業第1.2係 |
048-601-3151 | 茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・山梨県・長野県 |
北陸地方整備局 不動産業係 |
025-28-8880 | 新潟県・富山県・石川県 |
中部地方整備局 不動産業第1係 |
052-953-8119 | 岐阜県・静岡県・愛知県・三重県 |
近畿地方整備局 不動産業第2係 |
06-6942-1141 | 福井県・滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県・和歌山県 |
中国地方整備局 不動産業第1係 |
082-221-9231 | 鳥取県・島根県・岡山県・広島県・山口県 |
四国地方整備局 不動産業係 |
087-851-8061 | 徳島県・香川県・愛媛県・高知県 |
九州地方整備局 不動産業第1係 |
092-471-6331 | 福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県・宮崎県・鹿児島県 |
沖縄総合事務局 鑑定評価指導係 |
098-866-0031 | 沖縄県 |
不動産会社の検索も簡単にできます
国土交通省の「こちら」のページから、不動産会社の名前を入れるだけで簡単に検索できます。
上記の窓口に相談するときは、不動産会社を特定した状態で相談すればよりスムーズです。
5-2. 国民生活センター
「国民生活センター」は、不動産関連だけでなく、生活や消費問題に関わるトラブルの相談窓口として活用されています。
このとき、なぜ国民生活センターに相談するかと言うと、不動産会社じゃない大家さんと直接取引するときは、不動産の法律が適用されないからです。
なので極端な話、不動産会社だと違法な請求も、大家さんならできてしまうこともあるのです。
つまり、国土交通省だと取り締まることができないので、消費問題に最適な国民生活センターに相談することが望ましいのです。
まずは消費者ホットライン「188」に電話する
全国の市区町村に数多くの支店がありますが、まずは「188」に電話して最寄りの支店を紹介してもらいましょう。
そして、トラブルの内容を相談することで、解決策や今後の動き方をアドバイスしてくれます。
また、申し込みキャンセルに伴うトラブルの相談は多いので、あっさり解決することも割と多いです。
6. まとめ
申し込みのキャンセルについて解説してきましたが、いかがでしたか。
賃貸の申し込みをキャンセルするときは、契約書にサインする「前」か「後」かで対応が変わるので注意しましょう。
そして、申し込みをキャンセルするときは、形として証拠が残るメールを使うようにしましょう。
下記の状況に合わせて、メールのテンプレートをうまく活用してください。
申し込みをキャンセルしたことによって、トラブルが起きたり、疑問に感じることがあったときは、下記の窓口に相談しましょう。
相手が不動産会社なら「国土交通省」、大家さんなら「国民生活センター」です。
相談料はかからないので、気軽に相談してみましょう。
あなたがこの記事を読んだことで、トラブルなく申し込みをキャンセルできることを心から願っています。
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